頭を打った時、どうすればいい?受診の目安と自宅での注意点【脳神経外科医が解説】
日常生活で不意に頭を打ってしまうことは少なくありません。「たんこぶができただけだから大丈夫」と自己判断しがちですが、頭部の打撲には、数時間から数日経ってから命に関わる症状が現れるケースもあります。
本記事では、国内外の最新の頭部外傷ガイドラインと、世界的に信頼性の高い医学的エビデンスに基づき、すぐに受診すべき症状や「意識清明期」の危険性について解説します。
1. 最も警戒すべき「意識清明期(ルシッド・インターバル)」とは?
頭部外傷には、**「打った直後は意識がはっきりしていて元気なのに、数分から数時間の経過で急激に容体が悪化する」という恐ろしい特徴を持つものがあります。これを医学用語で意識清明期(Lucid Interval)**と呼びます。
なぜ「元気な時間」があるのか?
主に急性硬膜外血腫(頭蓋骨と脳を包む膜の間に出血が溜まる病態)で見られます。
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打撲直後:一時的な脳振盪から回復し、意識がはっきりします。
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数時間以内:頭蓋骨の内側で出血が徐々に溜まり、脳を圧迫し始めます。
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限界突破:脳の圧迫が限界を超えた瞬間、意識を失い、呼吸停止などの致命的な状態に急変します。
注意: 「今は受け答えもしっかりしているから安心」とは限りません。特に受傷後数時間は、目を離さず慎重に経過を見る必要があります。
2. すぐに救急車・受診が必要な「危険なサイン」
以下の症状が一つでもある場合は、脳内出血が進行しているサインです。迷わず医療機関を受診してください。
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意識の状態がおかしい(ぼーっとしている、呼びかけへの反応が鈍い)
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激しい頭痛がある(これまでに経験したことがないような激痛、次第に強くなる痛み)
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繰り返し吐く(2回以上の嘔吐、または噴き出すような激しい嘔吐)
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手足に力が入らない、または痺れ(しびれ)がある
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けいれんが起きている
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言葉がうまく出ない、ろれつが回らない、話が噛み合わない
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視界が二重に見える、瞳の大きさが左右で違う
3. 症状が乏しくても「検査」を検討すべき高リスク群
世界的な診断基準(Canadian CT Head Ruleなど)に基づき、以下の条件に当てはまる方は、無症状であっても速やかにCT検査等の精密検査を受けてください。
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血液をサラサラにする薬を飲んでいる: 抗血小板薬や抗凝固薬(バイアスピリン、ワーファリン等)を服用中の方。
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受傷時の衝撃が強い: 1m以上の高所からの転落、交通事故、自転車での転倒など。
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短時間の「意識消失」や「記憶の欠落」: 一瞬でも気を失った、または打った前後の記憶が30分以上ない場合。
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65歳以上の高齢者: 血管が破れやすく、出血が進行しても症状が出にくい傾向があります。
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頭蓋骨骨折の兆候: 目の周りの変色(ブラックアイ)、耳の後ろの皮下出血、鼻や耳からの出血・透明な液体。
4. 自宅で様子を見る際の「3つの約束」
医療機関を受診し「経過観察」となった場合、あるいはリスクがなく自宅で様子を見る場合も、受傷後24時間〜48時間は特に注意が必要です。
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安静を最優先する: 激しい運動、スマホ、読書、飲酒、長風呂は避けてください。
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一人にさせない: 意識清明期による急変に備え、必ず誰かが付き添ってください。
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定期的な覚醒確認: 夜間も数時間おきに声をかけ、正しい反応があるか、顔色が悪くないかを確認してください。
5. 数ヶ月後に現れる「慢性硬膜下血腫」
高齢者の方は、打撲から1〜3ヶ月後に「歩行のフラつき」「物忘れ」「意欲低下」などが現れることがあります。これは手術で治る疾患です。頭を打った経緯がある場合は、数ヶ月後でも脳神経外科を受診してください。
まとめ:迷ったら脳神経外科へ
頭の怪我は「外見の傷」と「脳のダメージ」が一致しません。意識清明期の存在を忘れず、「念のために」という受診が命を守る最善の選択になります。
当院では、頭部外傷に対する迅速なMRIまたはCT検査と専門医による診断を行っております。不安な方はお早めにご相談ください。
参考文献(エビデンス)
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Stiell IG, et al. The Canadian CT Head Rule for patients with minor head injury. The Lancet. 2001;357:1391-1396. (IF: 168.9)
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Kuppermann N, et al. Identification of children at very low risk of clinically-important traumatic brain injuries. The Lancet. 2009;374:1160-1170. (IF: 168.9)
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Mower WR, et al. Indications for computed tomography in patients with minor head injury. NEJM. 2000;343:100-105. (IF: 158.5)
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Bullock MR, et al. Surgical management of acute epidural hematomas. Neurosurgery. 2006;58(Suppl):S7-15. (意識清明期を伴う急性硬膜外血腫の管理指針)
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日本脳神経外傷学会編『頭部外傷治療・管理のガイドライン 第4版』(2017年)

