【認知症予防の真実】軽度認知障害(MCI)は治せる?久山町研究と生活習慣病治療の重要性
「最近、人の名前がパッと出てこない」 「以前より段取りが悪くなった気がする」
年齢のせいだと見過ごされがちなこれらの変化。実は、認知症の一歩手前である**「軽度認知障害(MCI)」**のサインかもしれません。
「認知症は治らない」というイメージをお持ちの方も多いですが、最新の研究では**「発症リスクの約45%は対策可能である」ことや、「MCIの段階なら健常な状態に戻れる可能性がある」**ことがわかってきました。
今回は、世界的に信頼される日本の「久山町研究」のデータと、最新の医学レポートを基に、私たちが今できる「脳を守るための具体的な対策」について解説します。
1. 軽度認知障害(MCI)とは?「戻れる」可能性がある時期
軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)とは、健常な状態と認知症の中間に位置する「グレーゾーン」です。
最も重要な点は、**「MCI=必ず認知症になるわけではない」**ということです。 適切な対策を行えば、**14〜40%近くの方が健常なレベルに回復した(戻った)という研究報告もあります[^1][^2]。 つまり、MCIは「認知症の入り口」であると同時に、「予防対策が間に合うラストチャンス」**なのです。
2. 日本人のデータ「久山町研究」が示す最大のリスク
では、何が認知症のリスクを高めるのでしょうか? それを明らかにしたのが、福岡県久山町で1961年から続く疫学調査**「久山町研究(ひさやままちけんきゅう)」**です。精度の高さから「日本人の健康の縮図」として世界的に評価されています[^3]。
糖尿病はリスクを「約2倍」にする
この研究がもたらした最大の衝撃は、「糖尿病とアルツハイマー型認知症の強い関連」です。 データによると、糖尿病のある人は、そうでない人に比べてアルツハイマー型認知症の発症リスクが約2.1倍高くなることが判明しました[^4]。
高血糖状態が続くと、アルツハイマー病の原因物質(アミロイドベータ)が脳にゴミとして溜まりやすくなってしまうのです。
3. 治療すれば未来は変わる:リスクの「45%」は対策可能
「リスクが2倍」と聞くと怖くなりますが、ここからが重要な「希望」の話です。
2024年、世界五大医学雑誌の一つ『The Lancet』で、認知症リスクに関する最新レポートが発表されました。それによると、認知症のリスク要因のうち、遺伝などの変えられないものを除いた**約45%は「私たちが対策可能な要因(修正可能なリスク因子)」**であるとされています[^5]。
治療の目標は「発症を5年遅らせる」こと
糖尿病や高血圧の治療を行い、数値を良好にコントロールすることは、この「対策可能なリスク」を減らす最強の手段です。
専門家の間では**「発症を5年遅らせれば、認知症の患者数は半分になる」と言われています。 本来80歳で発症するはずだったものを、治療によって85歳、90歳まで遅らせることができれば、その人は認知症に苦しむことなく天寿を全うできる可能性が高まります。 つまり、「生活習慣病の治療」は、実質的な「認知症予防」そのもの**なのです。
4. 今日からできる3つの予防策
久山町研究や最新の知見に基づき、脳を守るための具体的な方法をご紹介します。
① 生活習慣病(糖尿病・高血圧)を放置しない
これが最も効果的な予防策です。「症状がないから」と薬を中断せず、HbA1cや血圧を適正範囲に保ちましょう。これは脳の血管を守るバリアになります。
② 食事は「伝統的な和食」を
久山町研究では、大豆製品、野菜、海藻類、魚を多く摂り、乳製品や動物性脂肪を適度に控える**「和食パターン」**の食事をしているグループほど、認知症リスクが低い傾向にあります[^6]。
③ 運動と社会参加
週3回以上の有酸素運動(ウォーキングなど)や、人との交流は脳への良い刺激となり、認知機能の維持に役立ちます。
5. まとめ:今日飲む1錠が、10年後の脳を守る
「生活習慣病の治療」を単なる数値合わせと思わないでください。今の治療は、**「10年後も家族の顔を覚えていて、自分らしく生活する未来」**を守るための投資です。
「最近物忘れが気になる」「健診で血糖値を指摘された」という方は、ぜひお早めにご相談ください。 MCIの段階で気づき、適切な管理を行えば、未来は変えられます。
参考文献
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Petersen RC, et al. Mild cognitive impairment: clinical characterization and outcome. Arch Neurol. 1999;56(3):303-308.
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Manly JJ, et al. Frequency and course of mild cognitive impairment in a multiethnic community. Ann Neurol. 2008;63(4):494-506.
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Ninomiya T. Japanese Legacy Cohort Studies: The Hisayama Study. J Epidemiol. 2018;28(11):444-451.
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Ohara T, et al. Glucose tolerance status and risk of dementia in the community: The Hisayama Study. Neurology. 2011;77(12):1126-1134.
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Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet Commission. The Lancet. 2024;404(10452):572-628.
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Ozawa M, et al. Dietary patterns and risk of dementia in an elderly Japanese population: the Hisayama Study. Am J Clin Nutr. 2013;97(5):1076-1082.

