「片頭痛の新しい飲み薬『ナルティーク』とは?発作時にも予防にも使える次世代治療」
- 片頭痛とは何か?
- ナルティークとは?
- どんな患者さんに適しているか?
- 従来薬との違い(トリプタン・抗CGRP抗体との比較)
- 使い方・服用方法(クリニックにおける説明ポイント)
- 期待される効果とデータ
- 注意すべき副作用・禁忌・使用上のポイント
- クリニックから患者さんへのメッセージ
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
片頭痛に悩む方に朗報です。
2025年9月に日本で承認された「ナルティークOD錠75 mg(一般名:リメゲパント)」は、 頭痛発作時の治療と発症抑制(予防) の両方に使用できる内服薬です。
米国ではすでに2020年から使用されているお薬になります。
このコラムでは、院長の目線で「いつ・どんな人に」「どう使うか」「従来薬との違い」「注意点」をまとめ、片頭痛を専門とする医療機関として、患者様にも分かりやすく紹介したいと思います。
片頭痛とは何か?
片頭痛は、頭の片側または両側がズキズキ・ガンガンと痛み、吐き気・光/音過敏を伴いやすい神経疾患です。
発作の頻度や強さは人によって異なりますが、日常生活や仕事に支障をきたすことが多いです。
近年では、発症メカニズムにおいて「カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)」という物質が関与していることが明らかになっています。
CGRPは三叉神経‐血管系に作用し、血管拡張や神経興奮を引き起こすことで、片頭痛発作の引き金となると考えられています。
そのため、近年の片頭痛治療では「CGRPの作用をブロックする」薬剤が注目されています。
ナルティークとは?
基本情報
製品名
ナルティークOD錠75 mg(一般名:リメゲパント硫酸塩水和物)
承認時期
2025年9月、日本で製造販売承認を取得
適応
18歳以上の片頭痛患者に対して、「片頭痛発作の急性期治療」および「片頭痛発作の発症抑制(予防)」の 両方 に使用できる
投与形式
経口OD錠(口腔内崩壊錠)として、水が無くても服用できる形状
特長
初の「発作時+予防」の両方に使える 経口CGRP受容体拮抗薬 という位置づけ(国内では初)です。注射製剤のアイモビークと同様の作用ですね。
発作時には1回75 mgを内服。
予防目的では75 mgを「隔日(1日おき)」投与という方法が添付文書で示されています。
トリプタン系薬剤(従来の発作時治療薬)とは異なり、血管収縮作用が少ないく、脳や心臓の血管の病気を持っている方でも使用できます。
どんな患者さんに適しているか?
適応の目安
従来のCGRPに対するお薬は日本での採用は皮下注射製剤しかなかったので注射が苦手な人は使用しにくい状況でした。
片頭痛の根本原因であるCGRPを抑えるお薬なのに、、。
しかも従来の一般的な片頭痛予防内服薬で改善がない人しか使えず、値段も比較的高価(1か月に1回注射で約4万円、保険診療3割負担で13000~14000円程度)でした。
ナルティークは内服薬ですので注射薬よりは使用するハードルが低いと思います。
また、「従来の予防薬で効果がない」患者さんしか使用できなかった注射薬に比べ、初期から予防薬として使用できます。
しかし、新薬ですので結局は値段が高いです。
薬価としては約3000円であり結局予防薬として使用すると注射薬と同等以上の費用が発生します。
また、頭痛発作時の治療として使用する場合、最大投与量が75mgですので1日1回しか使用できず、夢のような万能薬というわけではないと思います。
注意が必要な方
肝機能・腎機能に影響がある方:初期のゲパント系薬では肝機能障害が開発中止になった経緯があり、リメゲパントでもCYP3A4代謝や腎クリアランスに注意を要するという報告があります。
特に腎機能が低下している方は副作用が出やすかったりするので内服自体ができないケースがあります。
他の薬との相互作用:CYP3A4阻害薬(例:クラリスロマイシン)との併用で血中濃度が上がる可能性、CYP3A誘導薬(例:カルバマゼピン)で効果が弱くなる可能性が指摘されています。
妊娠・授乳期
この薬剤に関する長期的な安全性データが限られるため、妊娠中や授乳中の方は担当医師としっかり相談が必要です。
従来薬との違い
(トリプタン・抗CGRP抗体との比較)
トリプタン系薬剤
発作時治療の標準薬として広く使われています。例:5-HT1B/1D受容体作動薬。
ただし「血管収縮作用」があるため、心血管系疾患・狭心症などの既往がある方には使えないことが不便でした。
その点、ナルティークは血管収縮作用がないので、トリプタン製剤やエルゴタミン製剤が使用できない方にも処方できるメリットがあります。
抗CGRP抗体製剤(注射薬)
画期的な片頭痛予防薬として登場(エムガルティ皮下注(ガルカネズマブ)、アジョビ皮下注(フレマネズマブ)、アイモビーグ皮下注(エレヌマブ)など)しました。
ただし「発作時に使う」適応を持たない薬剤であり、注射形式で毎月あるいは隔月投与という特徴があります。
逆に言うと、頻回に内服する必要がないので、定期的な内服を忘れてしまう、めんどくさく思ってしまう方にはまだまだ需要があるお薬だと思います。
ナルティーク(リメゲパント)の特徴
経口薬として 発作時+予防の両方に使える点が国内で初めて。
水なしでも服用できるOD錠という服用しやすい形状。
血管収縮作用が少ないとされ、トリプタン使用が難しい方にも新たな選択肢。
使い方・服用方法
(クリニックにおける説明ポイント)
急性期治療(発作時)
片頭痛発作が始まったらできるだけ早めに1回75 mgを経口投与します。
1日1回75 mgを超えないようにします。
発症抑制(予防)
通常、成人には75 mgを隔日(1日おき)に服用する方法が添付文書上記載されています。
治療効果および継続の有用性は開始後3ヶ月を目安に評価し、改善がなければ中止しなければなりません。
服用時のポイント
水なしでも服用可能なOD錠なので、発作時に「吐き気で水が飲みにくい」などの状況でも使いやすいです。
他の発作治療薬(例:トリプタン)や予防薬との併用・切り替えについては、かかりつけ医または専門医(脳神経外科/頭痛専門)と相談の上行うべきです。
発作が頻回/変化する場合には、他の原因(例:慢性化、薬物過剰使用頭痛、二次性頭痛など)がないかも併せて評価が必要です。
期待される効果とデータ
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① 試験内容
- 片頭痛発作急性期の試験(N Engl J Med
. 2019 Jul 11;381(2):142-149. doi: 10.1056/NEJMoa1811090.
Rimegepant, an Oral Calcitonin Gene-Related Peptide Receptor Antagonist, for Migraine)
対象
片頭痛歴 ≥1年、月2–8回発作の成人 1072例
デザイン
リメゲパント 75 mg vs プラセボ、単回投与、二重盲検第3相試験
主要評価項目
2時間後の変化
頭痛完全消失
- リメゲパント群 19.6% vs プラセボ群 12.0%(絶対差 7.6%ポイント, p<0.001)
最もつらい随伴症状(MBS)消失
- リメゲパント群 37.6% vs プラセボ群 25.2%(差 12.4%ポイント, p<0.001)
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まとめ
- 2時間後の完全除痛もMBS消失も、いずれもプラセボより有意に上回る。慢性片頭痛の方が含まれていないので、治りにくい重症の片頭痛発作を抑えきれるのか、、?
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② 片頭痛の予防
- 片頭痛の予防効果(Croop R, et al. Oral rimegepant for preventive treatment of migraine: a phase 2/3,
randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2021;397:51–60.)
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対象
米国92施設、片頭痛歴 ≥1年の成人、観察期間後に 695例が解析対象
デザイン
リメゲパント 75 mg 隔日(EOD)投与 vs プラセボ、12週間、二重盲検
主要評価項目
週9〜12の月間片頭痛日数(MMD)の変化
MMD変化量
- リメゲパント:-4.3日/月
プラセボ:-3.5日/月
群間差:-0.8日(95%CI -1.46 〜 -0.20, p=0.0099)
安全性
- 有害事象発現率:リメゲパント 36% vs プラセボ 36%
重篤有害事象や予期せぬ安全性シグナルは認めず -
まとめ
- 隔日内服だけでMMDを4.3日減らし、プラセボを上回る結果。
しかし有意差は出ているものの、プラセボと比較して月1日の頭痛減少効果をどう解釈するか、、。
注意すべき副作用・禁忌・使用上のポイント
- リメゲパント:-4.3日/月
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- リメゲパント群 19.6% vs プラセボ群 12.0%(絶対差 7.6%ポイント, p<0.001)
主な注意点
本剤は、片頭痛治療に関する十分な知識・経験を有する医師のもとで使用することが添付文書に明記されています。
1日あたりの総投与量はリメゲパントとして75 mgを超えないこと。
効果が認められない場合には、「頭痛の原因を再検査」・「他の治療法を考慮」すべき。
副作用・相互作用のポイント
肝/腎機能に注意が必要。特にCYP3A4を代謝経路とするため、併用薬(CYP3A阻害薬・誘導薬)により血中濃度変動の可能性があります。
他のCGRP関連薬やトリプタンとの併用・切り替え時には、患者の全身状態(心血管系・腎/肝/併用薬)を整理する必要があります。
現時点では妊娠・授乳期の安全性データが限られているため、女性患者でその可能性がある場合は専門医対応を要します。
発作が頻繁/重症化/通常と異なるパターンの場合、薬物過剰使用頭痛や二次性頭痛の可能性もあるため、単に薬を変えれば良いというわけではなく、頭痛専門医・脳神経外科の診察が重要です。
クリニックから患者さんへのメッセージ
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ナルティークは今までのお薬とは異なる、予防薬と発作時の治療薬として脚光を浴びると思います。ただ、個人的には「どっちつかず」という印象を受けます。現在主流となっている急性発作時の治療薬であるトリプタン製剤は、患者さんに合う薬が見つかれば抜群に効果があると思います。また、トリプタン製剤の後発品は薬価が200円未満であり、ナルティークより明らかなにコストパフォーマンスがよいです。
予防薬についてもそれぞれの効果に差が証明されているわけではなく、安価な内服薬や月1回の注釈と比較するとナルティークが秀でた効果があるかは何とも言えないところです。
しかし、経口のCGRP製剤として今のところ唯一無二の存在ですし、もし急性発作時に内服しながら予防効果が徐々にでてきて頭痛が減っていくのであれば使用しやすいと思います。また注射薬に抵抗感がある方に対しては積極的に使用してもよいお薬だと思います。
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よくある質問(FAQ)
ナルティークを毎日飲めば頭痛が出なくなりますか?
いいえ。現時点では「隔日投与(1日おき)で予防」という臨床的な投与法が添付文書に記載されており、毎日継続投与が承認されているわけではありません。効果・継続性は開始後3ヶ月を目安に評価が推奨されています。
これまで使用していたトリプタンをやめてナルティークに切り替えられますか?
切り替えの可否・タイミングは患者様の頭痛頻度・既往歴・併存疾患・使用薬によって異なります。トリプタンで十分に効いている場合は継続の選択肢もありますし、効きにくい・副作用が強い・予防も併用したいなどの状況ではナルティークを検討することもあります。必ず専門医の診察のうえで判断しましょう。
副作用はありますか?
肝機能・腎機能・併用薬・全身状態によって注意が必要です。また、他のCGRP関連薬/トリプタンとの相互作用も考慮すべきです。特にCYP3A4代謝系の薬剤を併用している場合には血中濃度変動の可能性があります。
まとめ
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新薬「ナルティークOD錠75 mg(リメゲパント)」は、発作時の治療と予防の 両方 に使用できる経口CGRP受容体拮抗薬として、片頭痛治療に新しい選択肢を提供します。特に、トリプタンで十分な効果が得られていない方、予防薬を続けにくかった方、注射治療を避けたい方にとって検討価値のある薬剤です。
たただし、薬だけに頼るのではなく、発作日数の記録・生活習慣の見直し・専門医との定期フォローが重要です。頭痛でお困りの方は早めに相談・診断を受けましょう。
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