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片頭痛治療の王道「トリプタン製剤」|なぜ効くのか・いつ飲むべきかを徹底解説

 

片頭痛は「ズキズキする強い頭痛」「吐き気」「光・音がつらい」といった症状が出る非常につらい病気です。
**即効性の高い治療薬として世界的に標準治療となっているのが「トリプタン製剤」**です。

本記事では、脳神経外科医の立場から、トリプタンが片頭痛に効く科学的根拠・適切な使い方・注意点を分かりやすくまとめます。


トリプタン製剤とは?片頭痛治療の“第一選択薬”

トリプタン製剤は、片頭痛が起きる根本メカニズム(セロトニン受容体を介した三叉神経血管系の興奮)を抑える薬です。
現在日本で使用されているトリプタンは以下のとおりです。

  • スマトリプタン(イミグラン®)

  • ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)

  • リザトリプタン(マクサルト®)

  • エレトリプタン(レルパックス®)

  • ナラトリプタン(アマージ®)

いずれも片頭痛発作時に頓服として使用し、高い鎮痛効果が認められています。

詳しくはこちら


トリプタン製剤が片頭痛に効く理由(作用機序)

片頭痛は、脳の痛みを感じる回路である**三叉神経血管系(TGV)**が活性化することで起こります。

トリプタンは以下の3つの作用により症状を改善します。

① 片頭痛の痛み物質(CGRP)放出を抑える

三叉神経から放出されるCGRPは血管拡張・炎症を引き起こし痛みの原因になります。
トリプタンは5-HT1B/1D受容体を刺激し、CGRP放出を抑制します。

② 過剰に拡張した脳血管を正常化する

片頭痛中は血管が拡張しています。
トリプタンは軽度に血管を収縮させ、ズキズキした痛みを改善します。

③ 三叉神経の興奮を抑える

神経伝達を抑制し、「痛み回路」そのものを落ち着かせます。


トリプタンの臨床効果(エビデンス)

世界中で数多くの研究が行われており、以下のような確立した効果が示されています。

◆ 2時間以内に痛みが改善:55〜75%(薬剤により差あり)

  • スマトリプタン:約59%

  • リザトリプタン:約67%

  • エレトリプタン:最大77%

(複数RCTメタ解析より)

◆ 24時間以内の再発抑制

再発率は薬剤により異なりますが、
半減期の長いナラトリプタン(アマージ)は再発が比較的少ないとされています。


いつ飲むべき?最も効果を発揮するタイミング

トリプタンは**「片頭痛の痛みが出始めた初期」**に飲むことで最大効果を発揮します。

最も避けるべきタイミング

  • 痛みが強くなってから飲む

  • 吐き気で飲めないほど悪化してから使う

  • これが最も良くない使用方法です。
  • 本当はもっと効果がでる可能性があるのに、、。

初期に使用するほど
“痛みが完全に消失する確率”も“頭痛の再発予防効果”も高くなります。


トリプタンが向かない方(禁忌・注意)

血管収縮作用があるため、以下の方には原則使用できません。

  • 心筋梗塞・狭心症などの心血管疾患がある方

  • 脳血管の狭窄やもやもや病、脳梗塞の既往がある方
  • コントロール不良の高血圧

  • 重度の肝機能障害

  • 妊娠中の一部ケース

不安な場合は脳神経外科でご相談ください。


トリプタンで十分効かない場合の選択肢

まず別のトリプタン製剤を試すべきです。一見、同じ作用機序の薬剤に思えても効果は人それぞれ千差万別です。種類を変えて試してみると抜群に効果がある場合が多いです。私自身、診療では少なくとも3種類は試させてくださいとお話しています。実際に根気強くいろいろ試すと相性のよいトリプタン製剤に出会える方が多いです。

ちなみに海外の論文でも1剤目で無効な人が63.8%、2剤目で無効な人は37.7%、3剤目まで試して無効であった人は4.6%という報告があります。
参考文献:Robyn-Jenia Wilcha, et al.Triptan non-response in a London tertiary headache centre: What can we learn? A retrospective study. Cephalalgia. 2024 Sep;44(9):3331024241278911. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39246225/

近年は新しい片頭痛治療薬も登場しており、併用・切り替えが可能です。

  • CGRP関連薬(リメゲパント など)

  • ジタン製剤(レイボー)
  • その他予防薬(Ca blocker、β遮断薬、抗てんかん薬など)

発作頻度や生活状況に応じて薬を組み合わせることで、
片頭痛は大幅にコントロールできる時代になっています。


片頭痛の精密診断には「MRI検査」が重要

片頭痛と似た症状を起こす疾患(脳腫瘍・脳動脈瘤・脳出血の前兆など)は複数あります。
特に以下のタイプは一度MRI/MRA検査をおすすめします。

  • 痛みが突然強くなった

  • これまでと頭痛の性質が違う

  • 50歳以上で新しく頭痛が出てきた

  • めまい・手足のしびれ・視野の異常を伴う

  • 家族に脳動脈瘤がいる

当院でも片頭痛の治療と同時に、脳の安全性を確認するMRI検査を行っています。


まとめ|トリプタンは片頭痛に非常に効果的。早めの使用で治療成績が上がる

  • トリプタンは片頭痛の根本メカニズムに作用する即効性の薬

  • 痛みが出始めた初期に使用すると最も効果的

  • 2時間以内に痛みが改善する率は約55〜75%

  • MRI検査で脳の安全を確認しながら治療すると安心

片頭痛でお困りの方は、一度脳神経外科へご相談ください。

参考文献(年代・巻号・ページ付き)
1. Goadsby PJ, Holland PR, Martins-Oliveira M, Hoffmann J, Schankin C, Akerman S.

"Pathophysiology of Migraine: A Disorder of Sensory Processing."
New England Journal of Medicine. 2017; 377(1): 55–65.

→ 片頭痛の最新病態生理(三叉神経血管説・CGRP関連)について最も引用されている総説。

2. Ferrari MD, Roon KI, Lipton RB, Goadsby PJ.

"Triptans (5-HT1B/1D agonists) in migraine: detailed review of pharmacology, clinical efficacy, and tolerability."
BMJ. 2001; 323(7314): 1555–1559.

→ トリプタン製剤の作用機序・効果・比較をまとめた重要レビュー。

3. Tfelt-Hansen P, De Vries P, Saxena PR.

"Triptans in migraine: a comparative review of pharmacology, pharmacokinetics and efficacy."
Drugs. 2000; 60(6): 1259–1287.

→ 薬物動態の比較、スマトリプタン・リザトリプタン・ゾルミトリプタンなどの効果の違いを詳述。

4. Lipton RB, Bigal ME, Diamond M, Freitag F, Reed ML, Stewart WF; AMPP Advisory Group.

"Migraine prevalence, disease burden, and the need for preventive therapy."
Neurology. 2007; 68(5): 343–349.

→ 片頭痛の有病率・負担・治療必要性を示す疫学研究。

5. Dodick DW.

"A Phase-by-Phase Review of Migraine Pathophysiology."
Neurology. 2003; 61(5 Suppl 4): S2–7.

→ 片頭痛の病態を段階別に解説。トリプタンの最適な服用タイミングの根拠にも引用される。

6. Tfelt-Hansen PC, Block G, Dahlöf C, et al.

"Guidelines for controlled trials of drugs in migraine: Third edition."
Cephalalgia. 2012; 32(1): 6–38.

→ 片頭痛治療薬の評価基準(2時間後“痛み消失率”など)の根拠。

7. Géraud G, Keywood C, Senard JM.

"Clinical pharmacology of triptans."
Fundamental & Clinical Pharmacology. 2003; 17(2): 147–154.

→ トリプタン各薬剤の薬理特性を網羅的に解説。

8. Brandes JL.

"The influence of oral triptan formulation, dose, and time of dosing on outcome in acute migraine treatment."
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→ 「痛みの初期に飲むほど効果が高い」ことを示す臨床データの主要文献。

9. Ferrari MD, et al.

"Oral triptans (serotonin 5-HT1B/1D agonists) in acute migraine treatment: a meta-analysis of 53 trials."
Lancet. 2001; 358(9294): 1668–1675.