脳腫瘍とは
脳腫瘍とは、頭蓋骨の内部で異常な細胞が増殖して発生する腫瘍の総称です。
その種類は非常に多く、発生する部位や細胞の種類、そして小児か成人かによって性質や進行の仕方が大きく異なります。
日本における脳腫瘍の発症率は、成人で人口10万人あたり約12人、小児では約1人とされています。
成人ではおよそ半数が悪性、小児では約75%が悪性腫瘍であると報告されています。
脳腫瘍は脳や神経の働きに直接影響を及ぼすため、日常生活に大きな支障をきたすことが多く、場合によっては命に関わることもあります。
そのため、早期の発見と正確な診断、そして適切な治療が何よりも重要です。
脳腫瘍の主な2つの分類
原発性脳腫瘍
脳の細胞やそれを包む膜、あるいは脳神経などから発生する腫瘍は、「原発性脳腫瘍」と呼ばれます。
この原発性脳腫瘍は、病理検査や遺伝子検査によって150種類以上に分類されることが知られています。
原発性脳腫瘍には良性と悪性があり、悪性腫瘍は細胞の増殖が速く、周囲の組織にしみ込むように広がる「浸潤」という性質を持っています。
そのため、正常な組織との境界がはっきりせず、手術での切除が難しいこともあります。
悪性腫瘍は主に、大脳・小脳・脳幹など、神経細胞や神経膠細胞(グリア細胞)で構成される脳実質に発生します。一方で、良性腫瘍は増殖のスピードが遅く、周囲の組織との境界が比較的明確であることが特徴です。
これらは多くの場合、脳実質以外の部分である髄膜、下垂体、または脳神経などから発生します。
治療方針は、腫瘍の性質を示す検査結果と、患者さまお一人おひとりの年齢や全身状態、腫瘍の位置・大きさなどを総合的に考慮して決定します。
神経膠腫(グリオーマ)
神経膠腫はグリオーマとも称され、原発性脳腫瘍の中で髄膜腫に次いで多く見られます。
脳実質は神経細胞(ニューロン)と神経膠細胞(グリア細胞)で構成されており、この神経膠細胞が腫瘍化したものが神経膠腫です。
神経膠腫は大きく星細胞腫と乏突起膠腫の2種類に分類され、この中で最も一般的なのが星細胞腫です。
悪性度の高い膠芽腫(グリオブラストーマ)も、星細胞腫の一種に含まれます。
中枢神経系原発悪性リンパ腫
脳には、本来リンパ組織が存在しません。それにもかかわらず、まれにリンパ腫が脳の中に発生することがあります。このように脳に生じた悪性リンパ腫は、「中枢神経系原発悪性リンパ腫」と呼ばれます。
脳にリンパ腫が見つかった場合、まず全身の精密検査を行い、脳以外の臓器に病変がないことが確認されたときにのみ、この診断が確定します。
ごくまれではありますが、診断から数年後に全身にリンパ腫が発生するケースも報告されています。
悪性リンパ腫は大きく「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」の2つに分類されます。
ホジキンリンパ腫は、病理検査で「ホジキン細胞」と呼ばれる特徴的な細胞が確認されるのが特徴です。
それ以外のタイプはすべて非ホジキンリンパ腫に分類され、中枢神経系原発悪性リンパ腫のほとんどはこの非ホジキン型です。
さらに、その多くはリンパ球の一種であるB細胞から発生する腫瘍であることが知られています。
また、この疾患は眼球内リンパ腫を併発しやすい傾向があるため、診断時には脳だけでなく眼や全身の精密検査も行います。
髄膜腫
髄膜腫とは髄膜から発生する腫瘍で、原発性脳腫瘍の中で最も頻繁に診断されます。
髄膜は、脳を頭蓋骨の内側で包む硬膜、くも膜、軟膜という3層構造の膜です。
髄膜腫の多くは良性ですが、稀に悪性であるケースも存在します。
下垂体腺腫
脳の中心部には、ホルモン分泌に深く関わる「下垂体」という重要な器官があります。 ホルモンは、ごく微量で特定の器官の機能を調整する情報伝達物質であり、下垂体は視床下部からの指令を受け、そのホルモンの分泌を促します。
下垂体腺腫とは、この下垂体の一部の細胞が腫瘍化し、異常に増殖した状態を指します。
多くは良性腫瘍ですが、ホルモンの分泌異常や周囲の神経への圧迫によって、身体にさまざまな症状を引き起こすことがあります。
神経鞘腫
神経鞘腫とは、神経を取り巻く鞘状組織である神経鞘に発生する腫瘍を指します。脳から頭蓋骨の孔を通り、目、耳、舌へと繋がる神経を神経鞘が支えています。
神経鞘腫の中で最も多いのは、耳と繋がる前庭神経に生じる聴神経鞘腫で、次に三叉神経に発生するものが多く見られます。
頭蓋咽頭腫
転移性脳腫瘍は、他臓器で発生したがん細胞が血流に乗って脳に到達し、そこで増殖することで発生する腫瘍です。
原因となるがんは肺がんが約半数を占め、その他に乳がんや大腸がんなどが多く見られます。
転移性脳腫瘍が確認された場合、近年では手術ではなく、定位放射線治療(サイバーナイフ、ガンマナイフ、ZapXなど)が適用されるのが一般的です。
転移性脳腫瘍
転移性脳腫瘍は、他臓器で発生したがん細胞が血流に乗って脳に到達し、そこで増殖することで発生する腫瘍です。
原因となるがんは肺がんが約半数を占め、その他に乳がんや大腸がんなどが多く見られます。
転移性脳腫瘍が確認された場合、近年では手術ではなく、定位放射線治療(サイバーナイフ、ガンマナイフ、ZapXなど)が適用されるのが一般的です。
こどもの脳腫瘍
一般的に小児のがんというと白血病のイメージが強いかもしれませんが、実は脳腫瘍の患児も相当な割合を占めています。
小児がん全体における割合は、第1位が白血病(32%)、次いで第2位が小児脳腫瘍(25%)となっています。
つまり、小児がんの患児の4人に1人が脳腫瘍に罹患していることになります。
グリオーマ
グリオーマは、悪性の脳腫瘍の一種です。
脳腫瘍には、脳そのもの(脳実質:大脳、小脳、脳幹)から発生するものと、髄膜や下垂体、脳神経といった脳実質以外の場所から発生するものがあります。
脳や脊髄を構成する神経細胞、および神経膠細胞は、まだ役割が定まっていない(分化度の低い)神経上皮細胞から発生します。
この神経上皮細胞に由来する脳腫瘍を神経上皮性腫瘍と呼び、さらに細かく分類されます。
その中でも代表的なものが、神経膠細胞に由来する神経膠腫(膠腫)で、グリオーマとも称されます。
髄芽腫(ずいがしゅ)
髄芽腫は小脳に発生する小児で最も多い悪性脳腫瘍です。
主な症状には、水頭症に起因する頭痛や嘔吐、眼振、さらには小脳の機能障害によるふらつきや運動協調性の低下などがあります。
治療は、手術、放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的な方法が中心となります。
治療法の進歩により生命予後は改善傾向にありますが、後遺症や晩期障害の軽減も重要な目標とされています。
胚細胞腫瘍
(はいさいぼうしゅよう)
胚細胞腫瘍は、精子や卵子の前段階にある未熟な細胞が、精巣・卵巣といった生殖器以外にも、後腹膜、胸部(縦隔)、頭蓋内などの性腺外に発生する腫瘍です。
良性から悪性まで幅広く、奇形腫、ジャーミノーマ、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、胎児性癌といった組織型に分類されます。
性腺外に発生した場合、腫瘍の発生部位に応じて、頭痛、意識障害、複視、腹痛、ホルモン異常(尿崩症など)といった様々な症状が現れます。
頭蓋咽頭腫
(ずがいいんとうしゅ)
頭蓋咽頭腫は、脳下垂体近くに発生する良性腫瘍ですが、周囲の脳組織へ深く食い込むため治療が困難です。
しばしば嚢胞や石灰化を伴い、ホルモン異常、視力・視野障害、頭痛といった症状を引き起こします。
治療は手術による腫瘍摘出と放射線治療が主軸となりますが、機能温存を考慮した多専門職連携による治療が重要とされています。
上衣腫(じょういしゅ)
上衣腫は、脳や脊髄の内部に存在する上衣細胞が腫瘍化したもので、緩やかに増殖する特徴を持っています。
脳室や脊髄の壁に発生し、その部位によって症状は異なりますが、頭痛、嘔吐、麻痺、めまいなどが見られます。
小児に多く発生する脳腫瘍の一つですが、成人にも発症することがあります。
脳腫瘍の症状
脳腫瘍の症状は、その大きさ、発生部位、そして成長速度によって様々です。
主な症状として、以下の点が挙げられます。
- 朝に悪化する頭痛や頭部の圧迫感
- 頻繁に起こる重度の頭痛
- 吐き気、または嘔吐
- ぼやけた視界、複視(物が二重に見える)、視野の欠損
- 手足の麻痺や感覚の異常
- 平衡感覚の乱れ、歩行時のふらつき
- めまい
- 言葉が出にくい、またはろれつが回らない
- 記憶障害、および日常生活における支障
- 簡単な指示の理解が困難になる
- 性格や行動様式の変化
良性脳腫瘍は症状がゆっくりと進行する傾向がありますが、悪性脳腫瘍では短期間で症状が急速に悪化することが多いです。
脳腫瘍による頭痛は
いつ起こりやすい?
頭痛は脳腫瘍にみられる最も一般的な症状であり、患者さまの約半数が経験するといわれています。
脳腫瘍が大きくなると周囲の正常な脳の組織を圧迫し、その刺激によって痛みが生じます。
また、腫瘍の影響で脳が腫れ、頭蓋骨の中の圧力(頭蓋内圧)が上昇することも頭痛の原因となります。
こうした頭痛は、朝目が覚めたときに強く現れることが多く、これは睡眠中に頭蓋内圧が上がることが関係していると考えられています。
ただし、痛みは時間帯を問わず起こることもあり、咳をしたり、緊張したり、体を動かしたりした際に強まる傾向があります。
腫瘍の位置によって痛みの感じ方が異なることも特徴の一つです。
たとえば後頭部に腫瘍がある場合には首の痛みを伴うことが多く、前頭部に腫瘍がある場合には目の奥の痛みや副鼻腔の痛みに似た感覚を覚えることがあります。
このように、脳腫瘍による頭痛は単なる慢性頭痛とは異なり、腫瘍の存在や位置を示す重要なサインとなることがあります。
そのため、これまでとは違う性質の頭痛が続く場合には、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。
脳腫瘍を疑う時の検査

神経学的診察
脳腫瘍の診断では、まず問診を行い、症状の経過や発症のタイミングなどを詳しく確認します。
そのうえで、視力や聴力、運動機能などを評価する検査を組み合わせて実施します。
これは、脳腫瘍が発生する部位によって現れる症状が大きく異なるためです。こうした一連の検査は総称して神経学的検査と呼ばれ、脳のどの部分に異常があるかを推測する手がかりとなります。
腫瘍が大きくなると、頭蓋骨の中の圧力が高まり、頭蓋内圧亢進症と呼ばれる状態を引き起こすことがあります。
このときに現れる代表的な症状には、頭痛や吐き気、言葉の発音が不明瞭になる構語障害、手足の麻痺やしびれ、感覚障害、ふらつき、けいれん発作などがあります。
これらの症状を評価するために、「両上肢挙上試験」「片足立ち試験」「指鼻試験」といった検査を実施します。
CT・MRI検査
脳腫瘍の診断には、CT検査やMRI検査などの画像検査が行われます。
造影剤を使用することで、腫瘍の広がりや悪性度をより詳しく評価することが可能です。
一般的には、まずX線を用いたCT検査で脳全体の状態を確認します。
ただし、小脳や脳幹といった深部の病変は、CT検査だけでは十分に判別できない場合があります。
そのため、より詳細な診断を行う際にはMRI検査が有効です。
MRIでは、腫瘍そのものの性状だけでなく、脳浮腫(むくみ)の範囲や周囲への影響まで確認することができます。
病理組織検査
脳腫瘍の確定診断のためには「病理組織検査」が不可欠です。
この検査は、治療方針を決定する上で重要であり、手術中に摘出した組織をその場で調べます。
より詳細な確定診断は、術後に病理検査を行うことで得られます。
病理組織検査が必要な場合は、速やかに提携病院を紹介いたします。
脳腫瘍の治療
脳腫瘍の治療には、手術治療・化学療法(薬物治療)・放射線治療の三つの方法があります。
脳腫瘍は種類が非常に多く、それぞれ性質が異なるため、最適な治療法を選ぶにはまず正確な診断が欠かせません。
そのため、多くの場合は手術によって腫瘍の一部または全体を摘出し、病理学的に詳しく調べることで、腫瘍の種類や悪性度を確定します。
この診断結果をもとに、その後の治療方針を決定していきます。
たとえば、髄膜腫や聴神経腫瘍といった良性腫瘍の場合、手術で腫瘍を完全に摘出できれば根治が期待できるケースもあります。
一方で、悪性リンパ腫や胚細胞性腫瘍などのように、手術で全摘出を行わない方が望ましい腫瘍も存在します。
これらの腫瘍では、手術は病理診断を目的とした一部摘出にとどめ、その後に化学療法や放射線治療を組み合わせるのが一般的です。
手術が必要な場合には、脳神経外科領域で経験豊富な専門医が在籍する医療機関をご紹介し、安全かつ最適な治療が受けられる体制を整えています。

