- てんかんとは
- てんかんの種類
- てんかんになる原因
- てんかんの症状
- 大人でも突然てんかんになる?
発症年齢は? - てんかん発作時の対処法
- てんかんの検査
- てんかんの治療
- てんかん発作はコントロール
できます
てんかんとは
てんかんは、年齢・性別・人種を問わず発症する、脳の発作を繰り返す慢性疾患です。
世界保健機関(WHO)では「脳の慢性疾患」と定義されており、脳の神経細胞(ニューロン)が突発的に電気的興奮を起こすことで発作が生じます。この発作は一度きりではなく、繰り返し起こることが特徴で、症状や検査所見もさまざまです。
生涯のうちに一度でも発作を経験する人は人口の約10%にのぼり、そのうち二度以上発作を起こす人が約4%、実際に「てんかん」と診断されるのは約1%とされています。
日本国内にはおよそ100万人の患者さまがいると推定されています。
てんかん発作は、大脳のどの部位で電気的興奮が起こるかによって症状が異なります。
しかし、一人の患者さまにおいては、発作の症状はほぼ一定で、同じタイプの発作が繰り返し起こるのが特徴です。発作時には脳内の電気信号が乱れるため、脳波検査を行うと「棘波(きょくは)」と呼ばれる特徴的な異常波が観察され、診断の重要な手がかりとなります。
この疾患は乳幼児期から高齢期まで幅広い年齢層でみられ、人口100人あたり0.5~1人(0.5~1%)が発症します。発症のピークは3歳以下の幼少期に多く、成人期にはやや減少しますが、60歳以上では脳血管障害などを背景とした発症が増える傾向にあります。
小児期に発症した患者さまの中には、成長とともに成人前に発作が消失するケースもありますが、多くの場合は継続的な治療と経過観察が必要です。
適切な治療と生活管理により、てんかんは十分にコントロール可能な疾患です。
てんかんの種類
焦点性てんかん
特発性は、特に脳の損傷は見られず、年齢に関連して発症する良性てんかんです。
症候性は、脳の異常や損傷が病気の原因となっているてんかんを指します。
潜因性は、発症原因を特定できないてんかんです。
全般性てんかん
特発性てんかん(原発全般てんかん)とは、全般てんかん発作を呈するもので、神経学的検査や画像診断で脳の損傷が確認されないのが特徴です。
原発性とは、脳に損傷がなく原因不明であることを意味し、一部には遺伝的要素も含まれます。一般的に経過は良好です。
症候性てんかん(続発全般てんかん)は、てんかんの中で最も治療が難しいとされる、早期ミオクロニー脳症や、サプレッションバーストを伴う早期乳児てんかん性脳症などが代表的なものです。
脳に広範囲な損傷がみられ、知能障害を伴います。
続発性とは、慢性的な脳の器質的障害から二次的に発症していることを意味します。
分類不能てんかん
全般発作と部分発作の両方の特徴を持つ場合や、どちらの分類にも当てはまらないケースも存在します。
このような場合は、「分類不能てんかん」として扱われ、代表的な疾患として、ドラベ症候群が挙げられます。
てんかんになる原因
てんかんの原因は多岐にわたり、中には原因を特定できないケースも存在します。
てんかんの主な原因を、脳梗塞や脳出血、アルツハイマー病などの疾患、出産時のトラブルに起因する脳障害、細菌やウイルスによる感染症、遺伝子の変異、先天的な代謝異常、自己免疫の異常などが原因として考えられます。
てんかんの症状
てんかん発作の症状は多様であり、一見しててんかんと判別しにくい場合があります。
特に小児てんかんでは、発作症状は多岐にわたります。
てんかんと聞くと、泡を吹いて倒れるイメージが強いかもしれませんが、それだけではありません。
- ぼんやりして人の話を聞いていないように見える
- 口をモグモグさせたり、手をもじもじさせたりする
- 顔や身体の一部がぴくつく
- 肩を揺らす
- びくんと体が震え、持っている物を落とす
- 「こくんこくん」と頷く動作を繰り返す
- 夜中に寝ぼけたように動き回る
- 夜中に突然嘔吐を繰り返す
これらの症状はいずれも、てんかん発作である可能性があります。
発作症状は、発作が始まる脳の部位によって異なり、いくつかの発作タイプ(発作型)に分類されます。
患者さまによって発作型は様々ですが、同一の患者さまでは同じような症状の発作が繰り返し見られるのが特徴です。
一方で、チックや夜驚症、心因性発作など、てんかん発作と間違えやすい症状も存在します。
大人でも突然てんかんになる?発症年齢は?
てんかんは、発作を繰り返す脳の慢性疾患であり、年齢や性別を問わず、誰にでも発症しうる病気です。
小児期での発症が最も多い一方で、成人期にも発症することがあり、近年では、高齢になってから発症するてんかんが増加傾向にあります。国内における患者数は約100万人と推定されています。
てんかん発作時の対処法
周りの方は落ち着いて行動してください
目の前の方が突然発作を起こして倒れ、呼吸が止まったり顔色が悪くなったりすると、誰もが驚き、動揺してしまうものです。
しかし、慌てずに落ち着いて対応することが大切です。
もし痙攣が体の一部に限られ、全身に広がらない場合は、無理に動かしたりせず、安全を確保したうえで様子を見守りましょう。たとえ全身に痙攣が起こったとしても、発作は多くの場合1分から数分以内に治まり、10〜20分ほどで意識が回復します。
そのため、すぐに慌てて処置を行う必要はなく、落ち着いて経過を観察することが大切です。
ただし、痙攣が長く続く場合や、意識が戻らないうちに再び痙攣が起きた場合は、重篤な状態である可能性があるため、速やかに救急搬送してください。
発作が起きたらやるべきこと
まずは安全の確保を最優先
道路や階段など危険な場所にいる場合は、安全な場所へ移動させ、転倒やけがを防ぎましょう。
体を横向きにして気道を確保。
呼吸がしやすい体勢を保つことで、窒息のリスクを減らします。
周囲の危険物を遠ざける
家具や硬い物を取り除き、痙攣による打撲や外傷を防ぎましょう。
衣服をゆるめることで呼吸の補助を
服のボタンを外したり、ベルトを緩めたりして呼吸がしやすい状態に整えます。
発作の経過を記録
発作が始まった時刻や持続時間、症状の様子を観察し、医師に伝えましょう。
これらの情報は診断・治療の重要な手がかりとなります。
発作時・発作後に
してはいけないこと
てんかん発作時や発作後には、いくつか注意点があります。
発作時の対応は、痙攣が続いている最中は、名前を呼んだり、体を揺さぶったり押さえつけたりしてはいけません。
また、舌を噛まないようにと、痙攣中に無理に指、タオル、スプーンなどを口の中に突っ込む行為も避けてください。
硬い物を無理に差し込むと、歯が折れたり、口内を損傷したりする危険性があります。
指を入れると噛まれて怪我をする恐れもあります。
物を差し込むよりも、下顎を下から軽く持ち上げることで、痙攣時に舌を噛むのを防ぐことができます。
発作後の対応は、発作後に食べ物を吐いた際、仰向けのままだと吐瀉物が気管に詰まり、呼吸困難になる可能性があります。
そのため、発作後は顔を横に向けてください。
痙攣発作後、しばしば眠ってしまうことがありますが、発作後もうろう状態となり、物にぶつかったり、危険物に触れたりすることもあります。
そのため、周囲の人が軽く寄り添い、保護してあげましょう。
てんかんの検査

問診
てんかん診断の基本は問診です。
発作がどのような状況で起こるのか、どのような症状が現れるのか、そして持続時間はどの程度かなど、医師に詳しく伝えることが重要です。
患者さまご自身に発作の記憶がないケースも多いため、発作時に居合わせたご家族など身近な方が、携帯電話の録画機能などを用いて発作の様子を記録しておくと、診察の際に非常に役立ちます。
脳波検査
脳の電流を記録する検査では、てんかん発作に関連する波形やその出現パターンから、発作の型を判定します。
当院では脳波検査機器がありませんので、検査が必要な場合は提携病院をご紹介いたします。
神経心理検査
神経心理検査では、記憶力など脳の機能を調べます。
てんかんの治療
薬物療法
てんかん治療の基本は、抗てんかん薬による薬物療法です。
適切な薬剤を使用することで、患者さまの6割以上が発作を良好にコントロールできるといわれています。
現在、日本では20種類以上の抗てんかん薬が使用可能であり、発作のタイプや薬への反応、副作用の有無などを考慮して、患者さま一人ひとりに最適な薬剤が選ばれます。
服用により、眠気やふらつき、発疹などのアレルギー反応、脱毛、食欲低下といった副作用がみられることもあります。
そのため、副作用をできるだけ抑えながら発作を安定的に抑制できる薬剤や服用量を見極めるまでには、一定の時間がかかることもあります。
療中は、症状が落ち着いても自己判断で服薬を中止せず、必ず医師の指示に従うことが重要です。
一部の小児てんかんでは、成長とともに自然に発作が治まり、服薬を終了できる場合もありますが、ほとんどのケースでは高血圧などの慢性疾患と同様に、薬を継続的に服用して安定した状態を維持することが大切です。
外科手術
薬物療法のみではコントロールが困難な難治性てんかんも、約2割の患者さまに見られます。
このうち約1割のケースでは、外科手術(開頭手術)が有効である可能性があります。
手術の実施については、発作が脳の一部に限定されているか、術後の後遺症のリスクが低いかなど、様々な要因を慎重に検討した上で判断されます。
手術が必要な場合は、速やかに提携病院を紹介いたします。
迷走神経刺激療法
「迷走神経刺激療法」という補助的な治療法が実施されることもあります。
これは、電気刺激を発生させる医療機器を皮下に埋め込み、迷走神経を刺激することで、てんかんの発作回数を減少させたり、発作の程度を軽減させたりする方法です。
この治療法で発作を完全に抑制することはできません。
しかし、約半数の患者さまで発作の頻度や強度が約50%に抑えられるとされており、生活の質の改善が期待できる選択肢の一つです。
てんかん発作は
コントロールできます
てんかんがあっても、適切な治療と自己管理を行えば、充実した人生を送ることができます。
日常生活では、
- 医師の指示通りに薬を服用する
- 十分な睡眠をとる
- アルコールを控える
この3点を守ることが大切です。
ストレスを減らし、規則正しい生活を心がければ、多くの方が社会で活躍されています。
職業の制限は一部に限られ、発作が2年間なく安定していれば運転も可能です(医師の判断が必要です)。
また、女性でも妊娠・出産は十分可能です。
抗てんかん薬が胎児へ影響する可能性もありますが、妊娠前から葉酸を摂取することでリスクを抑えられます。
主治医と相談しながら治療を継続することで、多くの患者さまが健康なお子さんを出産しています。

