- 脳の血管が詰まる・破れる
「脳卒中」 - 脳卒中の3つの種類
- 脳卒中が起こる原因
- 脳卒中の前兆や初期症状をチェック
- 脳卒中の後遺症
- 脳卒中を疑う時の検査
- 脳卒中の治療
- 脳卒中かな?と思ったら
可能な限り早く救急車を
脳の血管が詰まる・破れる
「脳卒中」
脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりすることで、脳の一部が障害を受ける病気の総称です。
代表的なものには、脳出血・脳梗塞・くも膜下出血があります。
発症すると、言葉が出にくい、手足が動かしにくい、しびれるなどの神経症状が現れ、後遺症が残ることも少なくありません。
重症の場合には命に関わることもあるため、早期の対応が非常に重要です。
現在、日本では毎年約25万人の方が新たに脳卒中を発症しており、死亡原因の第4位を占めています。また、寝たきりの原因のおよそ3割が脳卒中によるものといわれています。
脳卒中の多くは、生活習慣の乱れや加齢による動脈硬化が原因で起こります。
特に高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・過度の飲酒などは発症リスクを高める要因です。
日常生活の中でこれらを予防・管理することが、脳卒中を防ぐ第一歩となります。
脳卒中は誰にでも起こりうる深刻な疾患ですが、早期発見と適切な治療によって後遺症を最小限に抑えることができます。
少しでも気になる症状がある場合は、早めに当院へご相談ください。
脳卒中の3つの種類
脳卒中は、脳の血管が「破れる」あるいは「詰まる」ことで、脳への血液供給が滞り、脳機能が低下する病気です。
この機能低下により、言語障害、手足の麻痺、意識障害などの症状が現れ、重症の場合には命に関わる危険性もあります。
脳卒中は、血管の状態から「くも膜下出血」「脳出血」「脳梗塞」の3種類に分けられます。
脳梗塞
脳の血管が詰まって血流が途絶えた状態が続くことで、脳の一部の細胞が壊死してしまう病気です。
壊死した脳組織は元に戻らないため、麻痺・言語障害・感覚障害などの後遺症が残ることがあります。
症状は24時間以上続くことが特徴です。
一過性脳虚血発作
脳の血流が一時的に滞ることで、脳梗塞とよく似た症状(手足のしびれ・言葉が出にくい・視力障害など)が現れます。
しかし、短時間(通常は数分〜1時間以内、長くても24時間以内)で症状が消失し、脳に明らかな損傷は残りません。ただし、一過性脳虚血発作は「小さな脳梗塞の前触れ」ともいわれており、発症後数日以内に本格的な脳梗塞を起こすリスクが高いことが知られています。
そのため、症状が一時的に治まっても、できるだけ早く医療機関を受診し、精密検査を受けることが重要です。
脳出血
脳の中にある細い血管が破れて、脳の組織内に出血が広がる病気です。
主な原因は高血圧で、長年の血圧上昇により脆くなった血管が破裂して発症します。
出血の部位によって現れる症状は異なりますが、一般的には片側の手足の麻痺、ろれつが回らない、意識障害、強い頭痛や吐き気などがみられます。出血量が多い場合は命に関わる危険性が高く、緊急治療が必要です。
くも膜下出血
くも膜下出血は、脳の血管にできた瘤である脳動脈瘤が破裂し、脳表面を覆う薄い膜「くも膜」の内側に出血が生じる状態です。
代表的な症状は、突然襲う激しい頭痛で、患者さまの中には「バットで殴られたような痛み」と表現される方もいます。多くの場合、意識障害や吐き気、嘔吐を伴い、脳卒中の中でも特に重篤な疾患とされています。
発症した患者さまのうち、約3分の1が死亡し、約3分の1に重い後遺症が残るといわれています。
社会復帰が可能となるのは、残りの約3分の1程度にとどまります。
脳卒中が起こる原因
脳卒中は、日々の生活習慣と密接に関わるさまざまな危険因子が重なることで発症しやすくなる病気です。
高血圧や脂質異常症、糖尿病、喫煙、慢性腎臓病などはその代表的な要因であり、これらが長年にわたって心臓や血管に負担をかけ続けることで、次第に脳の血管にも障害をもたらします。
なかでも脳出血や脳梗塞の主な原因は、高血圧や動脈硬化とされています。
動脈硬化によって血管の内側が狭くなれば血流が滞り、やがて血管が詰まって脳梗塞を引き起こします。
一方で、高血圧によって血管の壁に過度な圧力がかかると、血管が破れて出血する脳出血が起こります。
さらに、不整脈(とくに心房細動)があると心臓の中で血液の塊(血栓)ができやすくなり、それが血流に乗って脳の血管を塞ぎ、脳梗塞を発症することもあります。
また、くも膜下出血の直接的な原因は、脳の血管にできたこぶ(脳動脈瘤)の破裂です。
この脳動脈瘤は、喫煙や高血圧、糖尿病などの生活習慣、あるいは加齢による血管の変化が重なることで形成されやすくなると考えられています。
脳卒中の前兆や
初期症状をチェック
脳卒中は、多くの場合、突然発症します。
しかし、以下のような初期症状(一過性脳虚血発作)が現れることもあります。
これらの症状は数分から数十分、遅くとも24時間以内に消失しますが、「治まったから大丈夫」と自己判断せず、すぐに当院を受診してください。
- 急な顔の片側のしびれ
- 急な身体の片側の手足のしびれ
- ペン・箸などを持てない、うまく使えない、落とす
- 意識の低下・消失
- けいれん発作
- 呂律が回らない、言葉が出にくい
- 激しい頭痛
- 人の言葉が理解できない
- 視野が狭くなる、片目が見えにくい
- 嘔吐、吐き気
- 真っすぐ歩けない、立てない
- グルグルする回転性のめまい
脳卒中を疑う場合、下記に
従ってチェックしてください
脳卒中の代表的な初期症状は、「FAST(ファスト)」という言葉で表されます。
これは、Face(顔)、Arm(腕)、Speech(言葉)、Time(時間)の頭文字から取られています。
Face:顔の麻痺
顔に現れる初期症状としては、片側のしびれや、うまく動かせないといった状態が挙げられます。
Arm:腕の麻痺
腕や手に現れる初期症状としては、腕に力が入らない、両腕を水平に保てない(片方の腕が落ちる、上がらない)などが挙げられます。
Speech:言語障害
言語障害として現れる初期症状には、呂律が回らない、話したいことが話せない(言葉が出てこない)などがあります。
Time:発症時刻の確認
これは症状自体ではありませんが、症状が現れた時刻を記録することを指します。
発症から治療開始までの時間によって、最適な治療法が異なるためです。
発症時刻は、医師や看護師、救急隊員に必ず伝えてください。
脳卒中の後遺症
脳は、大脳・小脳・間脳・脳幹の4つに大きく分けられます。
これらの部位はそれぞれ異なる役割を担い、神経を介して互いに連携することで、私たちの思考や運動、感情、生命維持など、さまざまな身体機能が保たれています。
しかし、脳卒中によって脳の血管が詰まったり出血したりすると、神経が損傷を受けて正常な働きが妨げられ、さまざまな症状が現れます。
なかでも脳の大部分を占める大脳は、さらに前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉に分かれており、それぞれが異なる機能を担っています。
たとえば、前頭葉は物事の判断や注意力のコントロール、感情の調整などをつかさどっており、この部分に損傷が生じると、注意が散漫になる・怒りっぽくなるといった変化が見られることがあります。一方で、後頭葉は視覚機能を担っており、損傷すると視覚に異常が生じることがあります。
運動麻痺
運動を行う際、前頭葉の後端に帯状に存在する運動野から、身体を目的通りに動かすための指令が発せられます。
この指令は、神経を介して脳から脊髄(脳から背骨へと伸びる神経の束)へと伝わり、さらに脊髄から筋肉に伝達されることで、身体を動かすことが可能になります。
神経は脳から脊髄に下降する際に交差するため、脳の左側の前頭葉が損傷すると身体の「右側」に、右側が損傷すると「左側」に症状が現れます。
両側に同時に血管障害が起こることは稀であるため、身体のどちらか一方に異変が生じる場合が多いことを理解しておきましょう。
また、広範囲かつ重度の血管障害では、多数の神経細胞が失われ、手足を全く動かせなくなる可能性もあります。
反対に軽度のものであれば、手の細かい作業を行う際に使いづらさを感じる程度で済む場合もあります。
感覚麻痺
何かに触れる、あるいは触れられた際の「感覚」は、神経を介して脊髄から視床へと上り、そこで中継された後、運動野に並走するように存在する感覚野に伝達されます。
そのため、頭頂葉や視床が損傷すると、感覚麻痺が生じます。
感覚機能がわずかに低下した患者さまからは、「皮膚がもう一枚あるような感じがする」という声がよく聞かれ、足の裏に異変を感じる方は浮いたような感覚を覚えることもあります。
運動麻痺と同様に、症状は身体の片側に現れることが多く、重度の場合には全く感覚が分からなくなる患者さまもいます。
頭頂葉は、聴覚や視覚などのあらゆる感覚情報を統合し、運動を司る前頭葉へと伝達しています。
このため、頭頂葉が損傷すると、感覚がうまく統合できなかったり、情報伝達が阻害されたりすることで、運動機能にも悪影響を及ぼすことがあります。
高次脳機能障害
高次脳機能障害とは、脳血管障害などにより「記憶障害・注意障害」、「失語症」、「失認症」、「失行症」が生じる状態を指します。
ここで、失認症と失行症について少し説明します。
「失行症」とは、運動機能自体には問題がないにもかかわらず、動作をうまく行えない状態です。
例えば、歯磨きの仕方が分からない、洋服を上手に着られない、などが挙げられます。
「失認症」とは、知能、注意機能、感覚機能が保たれているにもかかわらず、物事を認識できない状態です。
これらの高次脳機能障害が引き起こされると、日常生活に大きな支障をきたします。
特に難しいのは、患者さま自身が自覚しにくい点です。
リハビリテーションによって一定の回復が見られる方もいますが、その程度は個人差が大きいです。
身体機能が回復しても、高次脳機能障害が最後まで残るケースは少なくありません。
その他の種類
視野障害
視覚情報は、視神経から側頭葉を経て後頭葉の内側へと伝達されます。
そのため、視神経、後頭葉、側頭葉に障害が生じると、視野の一部が欠けたり、半盲になったりする視野障害が起こります。眼には眼球を動かす3つの神経も通っており、これらの神経が障害を受けることで、物が二重に見える複視が生じることもあります。
特に高齢の患者さまが視野障害を起こした場合、バランスを保つ筋力も低下しているため、物にぶつかって転倒する可能性が高まります。
嚥下障害
嚥下障害とは、口に入れた飲み物や食べ物をうまく飲み込めない状態を指します。
原因としては、感覚麻痺や運動麻痺による舌・喉の動きの悪化、あるいは飲み込みに関わる筋肉の低下などが挙げられます。
脳卒中を発症すると、気管への侵入を防ぐ「喉頭蓋」の動きも悪くなり、「誤嚥性肺炎」を引き起こしやすくなります。嚥下障害は、喉の詰まりや誤嚥性肺炎のリスクを高めるだけでなく、食事量の減少による体力・筋力低下にも繋がるため、これを防ぐ必要があります。
失語症・構音障害
失語症とは、左側の大脳にある言語中枢が障害されることで、「書く」「読む」「話す」「聴く」といった機能が困難になる状態を指します。
大きく分けて二つのタイプがあり、一つは「聞いたことは理解できないが、言葉はなめらかに話せる」感覚性失語、もう一つは「言葉は理解できるが、うまく話せない」運動性失語です。
障害部位によって症状は異なり、両方のタイプが障害された「全失語」も存在します。
一方、構音障害は、運動麻痺や感覚麻痺により舌や口がうまく動かせず、正しい音を作ることができないため、不明瞭・不規則な話し方になる障害です。
排尿障害
排尿障害とは、尿をためたり排出したりする働きがうまくいかなくなる状態を指します。
この排尿の仕組みは、膀胱や尿道といった臓器だけでなく、脊髄や大脳を含む神経系によって精密に制御されています。
健康な状態では、膀胱が少しずつ膨らみながら尿をため、その間は尿道の筋肉がしっかり閉じて漏れを防ぎます。
そして排尿の際には、膀胱が収縮して尿を押し出すと同時に、尿道の筋肉が緩むことで体外へスムーズに排出されます。このように、排尿は神経が絶妙なバランスを取りながら調整している、非常に繊細な生理機能です。
しかし、脳卒中によって脳や神経の連携が乱れると、このバランスが崩れてしまいます。
その結果、尿を十分にためることができず頻繁に尿意を感じるようになったり、急な尿意に対応できず失禁してしまったりします。
特に運動麻痺を伴う患者さまでは、素早く移動できないためトイレに間に合わず失禁してしまうケースも見られます。一方で、排尿したいという感覚そのものが鈍くなり、尿意を感じないまま排尿してしまうこともあります。
このように、排尿障害は単なる「尿漏れ」ではなく、神経の損傷や情報伝達の乱れによって起こる複雑な症状であり、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。
脳卒中を疑う時の検査

神経学的診察
問診と診察では、脳卒中に特徴的な症状を評価します。
言語の異常、運動麻痺、感覚障害などを丁寧に確認し、診断の正確性を高めます。
頸動脈エコー
頸動脈エコー検査では、首の血管における血流異常や動脈硬化の程度を評価します。
これにより、血管の詰まり具合や動脈硬化の進行度を確認し、脳梗塞のリスクを予測します。
MRI検査
脳の血流や構造を詳細に描写できるため、特に初期の脳梗塞や微細な異常の発見に優れています。
MRA(磁気共鳴血管撮影)と組み合わせることで、脳血管の状態や血流の異常も評価可能です。
血液検査
血液検査では、脳卒中の危険因子である高血圧、糖尿病、脂質異常症の有無を評価します。
また、凝固異常や炎症の有無を調べることで、脳卒中の原因特定に役立てます。
脳卒中の治療
脳卒中の治療は、主に投薬治療と手術などの外科的治療の二種類があります。
血管を詰まらせる血液の塊を溶解する薬、その塊の増大を抑える薬、脳の腫れを抑制する薬、脳を保護する薬、止血剤などを投与し、くも膜下出血、脳出血、急性期の脳梗塞による脳へのダメージに対応します。
また、脳梗塞発症後早期であれば、カテーテル治療(血管に挿入する管を用いた治療)により、脳血管内の詰まりを取り除く治療も有効な場合があります。
くも膜下出血においては、動脈瘤の再破裂を防止する手術が検討されるため、手術が必要な場合には、速やかに提携病院をご紹介いたします。
その他にも、脈拍、体温、血圧といった全身状態の管理、生活習慣の改善、危険因子の背景となりうるリハビリなどを行いながら、機能回復と社会復帰を目指していきます。
脳卒中かな?と思ったら
可能な限り早く救急車を
脳卒中の症状が現れた場合は、ためらわずに救急車を呼んでください。
脳梗塞には、発症から4〜5時間以内の方にのみ行えるt-PA静注療法や、カテーテルで血栓を取り除く血栓回収療法があります。
これらの治療は、早期に行うほど後遺症を軽減できる可能性が高まります。
時間が経過すると改善が難しくなるため、夜間や就寝前に症状が出ても様子を見ずに受診してください。
一時的に症状が治まっても、重い脳梗塞の前兆であることがあります。
また、意識がない場合は横向きにして呼吸を確保し、すぐに119番へ連絡してください。

