鼻がつまって頭が痛い
私たちの鼻の奥には「鼻腔(びくう)」と呼ばれる空間があり、その周囲には鼻腔とつながった「副鼻腔(ふくびくう)」が存在します。副鼻腔は、篩骨洞・前頭洞・蝶形骨洞・上顎洞の4つに分けられ、いずれも頭部や顔面の感覚をつかさどる三叉神経の近くに位置しています。このため、副鼻腔に膿が溜まったり、粘膜が腫れたりすると三叉神経を刺激し、頭痛や顔面痛を引き起こすことがあります。
頭痛の原因となる鼻の疾患には、アレルギー性鼻炎(花粉症を含む)や副鼻腔炎(蓄膿症)などが代表的です。
特に副鼻腔炎では、副鼻腔内に膿がたまることで眼の奥の痛みや頭の重さを感じることがあり、その痛みの部位が緊張型頭痛や片頭痛に似ているため、誤って片頭痛と診断されるケースも少なくありません。
鼻づまりで頭痛が起こる原因
日常生活で経験することの多い頭痛には、耳鼻咽喉科の病気が関わっている場合があります。
副鼻腔炎
顔の骨の内部には「副鼻腔」と呼ばれる、鼻とつながった空洞があります。
この副鼻腔に細菌が侵入して増殖すると、内部の粘膜が腫れ、膿がたまる状態になります。
これが、かつて「蓄膿症」と呼ばれていた副鼻腔炎です。
副鼻腔炎が起こると、炎症によって三叉神経が刺激され、額や頬の痛みを感じることがあります。
さらに、三叉神経の働きによる関連痛として、後頭部の痛みや頭全体の鈍い痛みが生じることもあります。
こうした痛みは片頭痛や緊張型頭痛と似ているため、区別が難しいこともあります。
アレルギー性鼻炎
アレルゲンが鼻粘膜に到達するとアレルギー反応が起き、鼻粘膜が腫れてきます。これにより鼻詰まりを感じるだけでなく、鼻とつながる副鼻腔(骨の空洞)にも空気が入りにくくなります。この副鼻腔の換気障害によって副鼻腔内が陰圧となり、頭痛が発生します。
アレルギー性鼻炎は近年増加傾向にあり、頭痛を訴える患者さまも増えています。
特に小児のアレルギー性鼻炎では、鼻症状よりも頭痛が主訴となるケースが多く見られます。
その他の病気
上記2つの疾患以外にも、耳鼻咽喉科領域には頭痛の原因となる病気が存在します。
その多くは鼻詰まりが原因で頭痛を引き起こしますが、中には脳や骨に悪影響を及ぼす重篤な病気もあります。
鼻と喉の境目である上咽頭に発生する癌を上咽頭癌と呼びます。上咽頭は口を開けただけでは見えにくい場所にあるため、初期段階では気づきにくいことが多いです。
しかし、進行すると脳を支える頭蓋底の骨に浸潤し、頭痛を引き起こすようになります。また、副鼻腔のうち頬部にある上顎洞も癌が発生しやすい部位です。上顎癌が骨に浸潤すると、頬部痛や頭痛を引き起こします。
鼻づまりを放置すると
どうなる?
副鼻腔炎(蓄膿症)による頭痛を放置すると、約3割の患者さまで慢性化するといわれています。
慢性化すると、疲労や体調の変化で症状が再発しやすくなり、頭痛も治りにくくなるのが特徴です。
適切な治療を行わないまま放置すると、炎症が耳へ広がって中耳炎を起こすことがあります。
さらに重症化すると、眼の神経にまで炎症が波及し、視力低下や失明のリスクを伴うこともあります。
まれではありますが、炎症が脳やその周辺の神経に影響を及ぼすと、麻痺・神経障害・髄膜炎・脳膿瘍などの重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。
そのため、副鼻腔炎(蓄膿症)は決して放置せず、早期に適切な治療を受けることが大切です。
また、アレルギー性鼻炎を放置することで副鼻腔炎を併発する場合もあるため、鼻づまりや鼻水などの症状が長引く際は、早めの受診をおすすめします。
鼻が詰まって頭が痛い時の
対処法・治し方
副鼻腔炎(蓄膿症)が原因の頭痛でも、頭痛薬の服用は可能です。
しかし、頭痛薬はあくまで一時的に痛みを和らげる対症療法であり、頭痛の根本的な原因を治すものではありません。
一時的に痛みが治まっても、副鼻腔炎そのものが改善していなければ、再び頭痛が起こる可能性があります。
そのため、頭痛薬に頼りすぎず、副鼻腔炎自体の治療を行うことが大切です。
抗生物質による治療
副鼻腔炎の原因が細菌感染である場合、炎症を抑えるために抗生物質の服用が必要になることがあります。
抗生物質には多くの種類があり、原因となる菌によって薬の種類・量・服用期間が異なります。
合わない抗生物質を使用すると、症状が改善しなかったり、悪化したりすることもあるため、自己判断で服用せず医師の指示に従うことが重要です。
鼻洗浄(鼻うがい)による治療
鼻洗浄は、片方の鼻の穴から洗浄液を注入し、副鼻腔内にたまった膿や分泌物を反対側の鼻の穴から洗い流す治療法です。痛みを抑えるために、水ではなくぬるま湯で温めた生理食塩水を使用します。
ただし、上を向いて洗浄液を入れると中耳炎を起こす可能性があるため注意が必要です。
市販の鼻うがいでは副鼻腔の奥まで十分に洗い流せないこともあり、
特に手術を受けた方やこれから受ける予定の方は、自己判断せず医師に相談してください。
誤った方法で行うと、鼻の粘膜を傷つけてしまうおそれもあります。
受診の目安
市販薬を服用しても症状が改善しない、一度良くなっても再発・悪化する、症状が7日以上続く、3~4日以上発熱が続く場合は、早めに受診し、適切な治療を受けましょう。
激しい頭痛や目のかすみ、脱力感や気分の不調、意識低下、両目あるいは片目の痛み、腫れ、発疹、小さな痣、胸の痛みや息切れ、持続的な腹部痛などの重い症状がある場合は、迅速な治療が必要な可能性が高いです。
放置せず、軽症のうちに早めに医師の診察を受けてください。
当院で行う検査
頭痛の原因が鼻由来か脳由来かを鑑別するため、問診や神経学的診察を行います。
さらに、MRIやCT検査で脳腫瘍、くも膜下出血、脳梗塞といった重篤な病気を除外します。
脳神経外科での治療方法
鼻詰まりによる頭痛には、薬物療法が有効です。
鼻炎や副鼻腔炎自体の治療は耳鼻咽喉科の専門分野ですが、頭痛がひどい場合は、脳神経外科で鎮痛薬や片頭痛治療薬などの予防薬が処方されることがあります。
検査の結果、鼻や副鼻腔が原因と判断された際には、耳鼻咽喉科をご紹介し、連携して最適な治療を提供いたします。
内服薬・点鼻薬
副鼻腔炎が慢性化している場合は、マクロライド系抗菌薬を半量で数ヶ月間服用することがあります。
アレルギー性鼻炎の患者さまには、抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬といったアレルギー反応を抑制する内服薬を使用します。
いずれの症状でも、炎症やアレルギー反応を強力に抑えるステロイド点鼻薬を併用することが多いです。
特に治療が困難とされる好酸球性副鼻腔炎には、ステロイドの投与が症状改善に有効とされています。
ネブライザー治療
ネブライザー治療では、薬剤を霧状にして鼻から吸入し、炎症による腫れを和らげます。
薬剤が病変部位に効率よく行き渡るため、点鼻薬より高い効果を期待できます。
副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の患者さまには、ネブライザーを用いて鼻腔内にステロイドや抗菌薬を投与しています。
手術
内視鏡で鼻腔内を確認しながら、各空洞の病的組織を除去し、空洞を広げて鼻水や膿の貯留を抑制します。
アレルギー性鼻炎の手術では、鼻粘膜の炎症を抑えるため、レーザーで焼灼する方法が一般的です。
しかし、再発の報告もあるため、症状に応じて下鼻甲介(鼻の奥の粘膜)の一部を切除して鼻の通り道を広げる手術や、鼻水の分泌を促す神経の作用を遮断する手術を選択することもあります。
手術が必要な際は、速やかに連携病院をご紹介します。

