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椎骨動脈解離

椎骨動脈の役割

椎骨動脈の役割私たちの脳に血液を送り届けている主要な血管には、頚動脈と脳底動脈があります。
左右に1本ずつある頚動脈は主に大脳へ酸素と栄養を供給し、一方の脳底動脈は脳幹や小脳といった頭部の後方に位置する領域を支えています。

なかでも脳幹は、生命維持に欠かせない極めて重要な部分です。
ここでは大脳から送られる神経信号が統合され、脊髄神経へとつながっていきます。
また、脳幹は意識の中枢であり、心臓の拍動や呼吸のリズムといった生命活動の根幹をコントロールする司令塔でもあります。
さらに、目や耳、口などを動かす脳神経の核もこの部位に集中しており、人間の生理機能の多くを支えています。

この重要な脳幹を栄養する脳底動脈は1本しか存在しませんが、そこへ流れ込む血液は、左右1本ずつある椎骨動脈から供給されています。
椎骨動脈は、頚動脈に比べると細く、損傷を受けやすいという特徴があります。
しかし、その走行は首の骨(頚椎)の中を通るように守られており、この構造が「椎骨動脈」という名前の由来にもなっています。

椎骨動脈解離とは

椎骨動脈は、首の後ろを通って脳へ血液を送り届ける、非常に重要な血管です。
この血管の内側の壁に亀裂が入り、そこから血液が血管壁の内部に流れ込む状態を椎骨動脈解離といいます。
血管の壁は三層構造になっており、最も内側にある「内膜」が損傷すると、血液が壁の中へ入り込みます。
その結果、血管内に「偽腔」と呼ばれる異常な空間ができ、血流が乱れることで血管が狭くなったり、詰まったりすることがあります。
このような変化が起こると、脳への血流が妨げられ、脳梗塞などの脳卒中を引き起こす危険性が高まります。
さらに、血管が過度に拡張して破裂すると、くも膜下出血を発症する恐れもあります。
椎骨動脈解離は、特に40歳代の発症が多いとされており、日本国内で発生する頭蓋内動脈解離の約6割以上を占めています。
発症率はおよそ10万人あたり2〜3人と報告されていますが、症状が軽く診断が難しい場合も多く、実際には見過ごされているケースも少なくないと考えられています。

椎骨動脈解離になる原因

椎骨動脈解離になる原因椎骨動脈解離は、首に大きな負担がかかる状況で発生しやすいとされます。
具体的には、整体やマッサージ、カイロプラクティック、シャンプー時、首に衝撃を受けるアトラクション、首を激しく動かすスポーツ、交通事故などが要因となります。
過度な負荷は、解離を引き起こす要因となります。
意外なスポーツとしてゴルフで発症するケースや、ジェットコースターが引き金となる症例も報告されています。

ストレスは関係ある?

椎骨動脈解離との直接的な因果関係は明確ではありません。
しかし、精神的なストレスは血管への負担を増やし、脳卒中の危険性を高める可能性が指摘されています。
そのため、ストレスを蓄積しないこと、十分な休息と睡眠を確保すること、そして首への負荷を避けることが肝要です。

椎骨動脈解離の症状

椎骨動脈解離の症状椎骨動脈解離では、現れる症状は多岐にわたりますが、最も特徴的なのは後頭部に突然起こる強い痛みです。
この痛みは、一般的な頭痛や肩こりとは明らかに異なる性質を持っており、「今までに感じたことのない痛み」と表現されることが多いです。
多くの場合片側の後頭部にのみ痛みが現れるのが特徴です。
初期段階でこの異常を正しく捉えることができれば、早期発見と早期治療に結びつき、重篤な合併症を防ぐことができます。

初期症状

  • 痛みは片側に限定して生じることが多い
  • 突然発症することが多い
  • 軽い肩こりのような痛みから、耐えがたい激痛まで幅広い強さで現れる
  • 痛みが数日から一週間以上続くことがある
  • 一般的な鎮痛剤が効きにくい

神経症状として現れる前兆

  • めまい(特に回転性のめまいが特徴的)
  • 嘔吐や吐き気
  • 物が二重に見える(複視)
  • 手足の脱力感やしびれ
  • 呂律が回らない(構音障害)
  • 歩行時のふらつき

椎骨動脈解離の検査

椎骨動脈解離の検査

神経学的診察

椎骨動脈解離が疑われる場合の神経学的診察では、まず意識レベルや脳幹機能を確認します。
次に、めまい・ふらつき・複視・構音障害・嚥下障害などの脳幹や小脳の異常がないかを丁寧に評価します。
また、片側の手足のしびれや脱力、顔面の感覚異常といった左右差のある症状がないかを調べます。
さらに、歩行時のふらつきや平衡感覚の異常も重要な所見です。
これらの診察結果をもとに、椎骨動脈の損傷や脳幹への血流障害が疑われた場合は、MRIやMRAによる画像検査で確定診断を行います。

MRI・MRA検査

MRIやMRA(MRI装置を用いて脳血管の状態を詳しく調べる検査)によって、脳および脳血管の構造や血流の状態を評価し、診断を行います。
これらの検査で十分な判断が難しい場合には、造影剤を使用した3D-CTA(CTによる立体的な血管撮影)や、カテーテル検査(細い管を血管内に挿入して直接観察する検査)を実施し、血管壁の状態をより詳しく確認します。
典型的な椎骨動脈解離では、画像上で椎骨動脈の狭窄や膨らみ、あるいは閉塞といった所見が認められます。
ただし、初回の画像検査だけでは診断が難しいこともあり、経過中の画像変化や臨床症状をあわせて総合的に判断します。
後頭部や首の後ろに痛みが先行し、MRAやCTAで偽腔(血管の裂け目にできる異常な血流経路)が確認された場合は、椎骨動脈解離の可能性が非常に高いと考えられます。

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CT検査

造影剤を注射後、CT撮影を行い、血管を詳細に描出します。
MRI・MRA検査で解離の特定が困難な場合に、この方法が用いられます。

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カテーテル検査

カテーテル(細い管)を血管内に挿入し、造影剤を注入することで血管の状態を直接確認する検査です。
他の検査で診断が困難な場合に、最終的な診断のために行われます。
カテーテル検査が必要な場合は、提携病院をご紹介いたします。

椎骨動脈解離の治療

手術が不要な場合

血管の裂けた状態をそのまま放置すると、症状が進行して脳卒中を発症するリスクが高まります。
しかし一方で、血管が時間の経過とともに修復される「リモデリング」と呼ばれる自然治癒の働きによって、脳卒中を起こさずに回復するケースもあります。
そのため、治療方針を決定する際には、脳動脈解離が進行する危険性とリモデリングが期待できる可能性を慎重に見極め、総合的に判断することが重要です。
リモデリングの可能性が高いと判断された場合には、定期的な画像検査を行いながら経過を観察し、同時に血圧の管理を徹底します。
一方で、もし脳梗塞を合併した場合には、抗血栓薬を用いた治療を行い、再発を防ぐことを目的とした管理が行われます。

手術が必要な場合

経過観察中に、解離の進行による動脈瘤(解離性脳動脈瘤)の発生が認められた場合、手術が検討されることがあります。
これは、解離性脳動脈瘤の破裂により、くも膜下出血が生じる危険性があるためです。
動脈瘤とは血管に形成された「こぶ」であり、これが破裂するとくも膜下出血を引き起こします。
動脈瘤の破裂を防ぐ手術方法としては、「コイル塞栓術」や「開頭クリッピング術」などがあります。
手術が必要と判断された場合は、速やかに提携病院をご紹介いたします。

見逃しや誤診を防ぐために

見逃しや誤診を防ぐために椎骨動脈解離は、誤診や見逃されることの多い疾患です。
主な理由として、通常のレントゲン検査では確認できないためです。

首の痛みで整形外科を受診した場合、多くは骨の異常を調べるためにレントゲン撮影が行われます。
しかし、異常が映らないと「寝違え」や「肩こり」と診断されてしまうことが少なくありません。
また、CT検査でも造影剤を使用しない限り、血管の異常を判断することは困難です。

椎骨動脈解離を正確に診断するには、血管の状態を確認できるMRIやMRA検査が必要です。
前兆としては、「これまでにない頭痛」や「50歳以降に初めて現れる頭痛」などが挙げられます。
こうした症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。

また、この疾患は無症状で進行することもあるため、定期的に脳ドックなどで脳血管をチェックすることが予防につながります。

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